精神科診療所の「こらーる岡山」に通う患者さんたちの日常を追った「精神」(Mental)というドキュメンタリー映画がこの6月に一般公開されます。
映画のカメラが一般の人には知りえない世界に踏み込みました。

映画『精神』公式サイト

この映画は世界の映画祭で絶賛され今も受賞ラッシュが続いています。
参考:CINEMA TOPICS ONLINEの記事(4月3日)

今まで精神病・精神科を扱った映画といえば、「ビューティフル・マインド」や「クワイエットルームにようこそ」などの普通の娯楽映画はありましたが、こちらはドキュメンタリーを貫いて、顔モザイク声変え一切無し、ナレーション・BGM・効果音も無しの、すっぴんの映画になっています。

えーっ、ドキュメンタリー映画って敷居が高そう…とか思うかもしれませんが、 普通の映画がホームページだとすると、人気ブログのような映画で、日常をたんたんと追っているのに、次回更新が気になるみたいな感じです。
患者さんたちの発言は予測不可能で、それぞれに味がありますので、次の人からはどんな言葉が飛び出すのだろうと惹きつけられてしまいます。

ちなみに、私は開始一分で涙腺が決壊しました。
(プチネタバレ)「私は友だちを失くしました」で始まる映画なんてありかよー。・゚・(ノД`)
健常者であろうと友だちを失くした経験の無い人なんて少ないはず。
監督の編集センスが伺えます。
ほかのシーンでも客席からすすり泣く声が聞こえました。

私は試写会で見たのですが、上映後に監督による質疑応答タイムがありました。
想田監督は、失礼ながら、もっとおじさんで、しかもドキュメンタリーの目隠し/BGM/ナレーションなし等のこだわりから、かなりの頑固親父系を想像しておりました。
でも、上映前のあいさつで登場してきたのは、普通の真面目そうな、30代後半の男性でした。
「あーこの人なら撮られるときに、緊張しなくてよさそう」 そう思いました。

上映後には質疑応答があり、客席よりかなりの質問が寄せられて、30分以上は質問攻めにあっていたと思うのですが、全てにきちんと回答されていて好感を持ちました。
偉い人や有名な人は、お客さんからの質問を無理やりねじまげて、自分の言いたいことだけを言ってちゃんと回答しないというパターンが見受けられますが、そうではなく、ひとつひとつ誠実に答えられていました。

私も「正気と狂気の境目にカーテンはあるのでしょうか」という質問をさせていただいたのですが、「カーテンをひいているのはむしろ社会のほう」(確かこんな感じ)というお答えで、非常に納得しました。
私は常日頃から、健常者とメンヘラの間にはなだらかな坂はあるけど崖や壁は無い(要するに区切りの線はない)と思っていましたので、同じ認識をされている方がいて嬉しかったです。

映画の結末についても他のお客さんからズバっと質問が飛び出しました。
公開前なのであまり書けませんが、私はこの映画は朝顔の観察日記のようなものである、と捕らえています。
ただし今までほとんど観察されなかった変わった種類の。そこに価値がある。
だから、仮説に基づいてシミュレーションしてデータを積み上げて説得する、みたいなものとは違うし、夏休みが終わったらそこで終わりで結末は分かりません。
ただし、この観察映画という文法は、いきなりみんなに理解してもらうのは難しいかもしれません。
普通に”精神障害者も共に生きている仲間だー支援しようー”みたいなメッセージがあると確かに分かりやすいですが、監督はその先を見据えているのだと思います。
だから、この映画に続いても続かなくてもメンヘルが普通に登場する映画とかが当たり前になった未来に、改めてぐるっと一周してきて評価される。
そんな映画なんじゃないかなと私は思うのです。

単館系ですが全国で上映されますので、お近くの映画館を探してみてください。
映画館に行くほどの元気がないという方はDVD化を待ちましょう。

映画公式サイト(予告編や劇場情報はこちらへ)
映画『精神』

監督のブログはこちらです
観察映画の周辺 Blog by Kazuhiro Soda
映画のブログもあります
映画『精神』宣伝ブログ

追記:DVD化されました!
精神 [DVD]
精神 [DVD]
posted with amazlet at 13.09.17
紀伊國屋書店 (2010-07-24)



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 統合失調症へにほんブログ村 メンタルヘルスブログ 統合失調症